自分らしく生ききるための人生会議のすすめ

こんにちは
プライベートナーシングコハルです。
今日は、「人生会議」についてお話ししていきたいと思います。
病院や市役所でみられる「人生会議」のポスター

「よく見るけど、自分にはまだまだ先のこと」
「やらないといけないとは思うけど、やり方がわからない」といった声が多く聞かれます。

「人生会議」とは、一体何なのか、何のためにするのか、その方法を掘り下げてお話ししていきたいと思います
あなたが自分らしく生ききるための一助となりますと幸いです

目次

人生会議とは

人生会議の正式名称をアドバンス・ケア・プランニング(ACP)と言います。
医療の現場だけではなく、家族会議など身近な場面で広まってほしいという願いから愛称として「人生会議」と名づけられました。

「人生会議」とは、あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、また、あなたの信頼する人たちと話し合うこと、そのプロセスのことを言います。

ここで大事なのは、プロセスであるということ。

白か黒かを決めるための会議ではなく、自分自身を振り返り、自分の価値観を見つめなおし
それを大切な人や医療者などに向けて話すこと。そして繰り返し話し合うこと。


これが、「人生会議」です。

急に聞かれても考えられない

忘れられない場面があります。
化学療法センター(抗がん剤を受けるための外来)で医師の診察に付き添っていたときのことです。


その方は、抗がん剤治療を5年ほど続けていましたが、病状が悪化し、治療ができなくなってしまいました。
息苦しさや痛みを抱えながらなんとか病院に来られました。

その方に医師は伝えました。

医師:「もう治療の手立てがなくなりました。がんの勢いが強くて治療の術がありません。」

患者さん:「何とか抗がん剤をうってもらえませんか?できなかったらもうおしまいということですよね…」
と呼吸困難感があり息も絶え絶えの様子で言います。

医師:「最期をどこで過ごすか、考えましょう。ここは大学病院ですので、看取りはできません。ホスピスか、最期までみてくれる民間の病院か、自宅か。決めてください」

患者さん:「そんな…ここでずっと診てもらってきたのに、ここに入院することもできないんですか…」

その時の患者さんとご家族の悲しそうな顔は忘れることはできません。
もちろんそれを告げる医師も辛かったと思います。

医療の現場では、このように精神的ショック、身体症状の悪化がありながらも重大な意思決定を迫られることがよくあります。

現在は、前もってアドバンス・ケア・プランニングを医療者と共に行う様々な取り組みが行われており、
地域と連携し、徐々にすすめていく動きとなっていますが、まだまだ課題は大きい状況です。


人は、健康上の問題を抱えていなければ、日常生活では「最期」を意識して過ごしていることは少ないと思います。
そして日常が過ぎ去り、「自分らしさ」を忘れて日々の忙しさに忙殺されてしまっています。

想像してみてください
いきなりあまりよく知らない人に
「あなたの大切なことは何ですか?」
「あなたらしさって何ですか?」

と聞かれても答えられないですよね。

これを医療の現場では、身体が辛い状態でいきなり聞かれるのです。

これが事前に考え、大切なひとに共有しておく「人生会議」が必要な理由なのです。

人生会議はなぜ必要なのか

前述したように
人は、健康上の問題を抱えていなければ、日常生活では「最期」を意識して過ごしていることは少ないと思います。
そして日常が過ぎ去り、「自分らしさ」を忘れて日々の忙しさに忙殺されてしまっています。

まさに健康なときにこの「自分らしさ」を見つめなおしておくこと。
これが人生会議の第一ステップなのです。

「自分らしさ」がわからないと、重要な意思決定に備えることはできません。

お医者さんにお任せ
家族にお任せ

となり後悔する方を多くみてまいりました。

健康なときに、「自分らしい」決断を話しておいたり、記入しておいたりすると
身体やこころが辛いときでもいつでもそこに立ち止まることができます。

そして、人生を豊かに生きることができるのです。

人生会議はエンディングのことを決めておくことだけではなく
「自分らしさ」を見つめなおすことで、これからの人生を楽しんで生きていくものなのです。

これが人生会議が必要な一番の理由です。

それでは実際に人生会議はどうやってするのかステップにわけて考えていきましょう

人生会議のステップ

自分の価値観を見つめなおす

②医療・介護についての希望を考える エンディング情報の整理

③信頼できる人と共有する。

④医療・介護関係者にも伝える。

こちらの①~④が人生会議のステップです。
ひとつずつみていきましょう

自分の価値観を見つめなおす

まずは人生を振り返ることから。



誰にどんな風に育てられましたか?

そのときの思い出は?

学生のころはどんな風に過ごしていましたか?

20代は?
30代は?
40代は?
50代は?
・・・・

尊敬する人や仕事のこと
子育てのこと
趣味や好きな場所、人、音楽、映画
思い出の場所や旅行など

紙に書きだしていきましょう。

アルバムを整理しながら
「これを見たら気持ちがほっとする。暖かくなる」
という写真だけを残し
別のアルバムに一言日記のように書き加え、
自分史アルバムを作るのもいいかもしれません。

こうして振り返ってみると
「自分は愛されて育ったな」
「苦労したけれどそれが今の自分を作っているんだな」
「あのとき頑張っておいてよかった」

などの気持ちがあふれてくるのを感じることができると思います。

今までの歩んできた人生が「自分らしさ」を形作っています。

そしてそれを踏まえて

今のあなたのお気持ちを見つめていきます。

今のあなたの気持ちを見つめなおす


「あなたの大切なこと」は何でしょうか


「自分で自分のことを決めたい」
「きれいな部屋で過ごしたい」
「感謝の気持ちを忘れずにいたい」
「人に迷惑をかけたくない」

十人十色、様々な「あなたらしさ」が聞かれると思います。

大切なことが思い浮かばなければ、
座右の銘や好きな言葉でもいいかもしれません。


そして、それらを踏まえたうえで

やっておきたいこと
行っておきたいところ
会っておきたいひと
謝っておきたいひと
感謝の気持ちを伝えたいひと

絶対にしてほしくないこと
これだけは避けたいこと

を考え記入していきます。
そして、それらをふまえ、エンディング情報の整理にすすんでいきます。

ただし、エンディング情報の整理は辛くなる方もおられます。
決して無理をせず、もうすこし、前回のステップ「自分の価値観を見つめなおす」を掘り下げてみてください

医療や介護についての希望を考える。エンディング情報の整理

ここまで振り返ることができたら
エンディング情報の整理をしていきます。

大切なひと、友人、知人の連絡先を書いておくことは大切です。
もしものとき
ご家族は誰をどこまで呼んでいいのかわからないことが多くあります。
もしものときは、悲しむ暇もなくご家族は忙しく動き回っています。
そんなご家族に負担をかけないように連絡先を書いておきましょう。

また、自分史アルバムの最後のページに使ってほしい写真をいれておくのもよいです。

家族が「これでいいか」と選んだ写真が、あなたの最期の写真になってしまいます。
どうせなら自分で選びたいですよね…

自分自身の葬儀をプロデュースする
 なんて言葉もあります。
生前整理普及協会のエターナルノートは会葬礼状や戒名のことまで細かく決めておけるよう作られています。
生前の声を録音しておいて、参列された方へのメッセージを作成される方も。

エンディング情報の整理は様々なところから出されており、市町村からインターネット、百円均一、書店など多種多様なものが揃っています。
ぜひあなたにあった一冊をみつけてみてくださいね


次は医療介護についての希望です。こちらは医療従事者や介護の専門の方に聞いてもらい、正しい情報を得たうえで考えていくことをおすすめします。

医療・介護についての希望

延命治療について

延命治療と聞くと管や機械につながれて、しゃべることもできず、ずっと過ごさなければならない
というイメージかもしれません。
けれどもここで知っていただきたいことは、延命処置をどこまでするか、引き際はどこか、などを考え、伝えておくことで、希望通りの療養を受けることができます。

延命治療と言っても人によってとらえ方は様々です。
・心臓マッサージや気管挿管、気管切開、人工呼吸器、人工心肺
・治癒が見込めない場合の輸血・昇圧剤・抗生剤
・胃瘻や経鼻カテーテルによる栄養注入
・静脈点滴・中心静脈点滴
・血液透析
・抗がん剤
・手術

延命=命を延ばすと捉えるのであれば、上記のものは全て延命になります。
このように、延命治療は絶対にやめてほしいと言っても上記のものも含まれる可能性があるということです。
ということは、極端に言うと自分で意思表示できなくなったとき、希望する治療までもしてもらえない可能性がでてくるのです。

そのため、正しい知識を仕入れたうえで、決めておく必要があります。

また、この治療の中には、苦痛を緩和する緩和ケアと重複する治療もあります。
例えば手術。
治す手術ではなく、症状を緩和する手術があります。
また、栄養注入や輸血、点滴も身体の状態をしっかりと見極め調整し、適正量を投与してもらえるならば身体もこころも穏やかに過ごすことも可能になります。
しっかり情報を得て決めていくことが大切です。

療養場所について

地域包括ケアのもと、さまざまな選択肢があります。

例えば自宅で最期まで という選択肢。
最期まで住み慣れた場所で家族といたいと考える方であれば選択される方も多くいらっしゃいます。
トイレに自分で行けなくなったら施設がいい
家族に迷惑かけたくない
症状があるからそばに医療者がいてほしい
と考える方にとっては、自宅という選択肢はないかもしれません。
というように、「あなたらしさ」をもとに考えていくと選択できます。

また、緩和ケア病棟やホスピスという選択肢もあります。
家族室があったり、いつでも面会自由だったりという面では自宅で過ごすメリットと、医療者がいつもそばにいるというメリットを掛け合わせた選択肢であります。

有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅など24時間看護体制の施設も増えてきています。
そこで安心して過ごされる選択肢を選ばれる方もいらっしゃいます。

最期まで過ごす場所は多種多様にあります。
それぞれにメリットデメリットがあり、「自分らしい生き方」をするのはどこが一番最適かを選ぶことが必要です。

寝たきり、認知症になったときに介護してほしいひと

もしも寝たきりになったとき
認知機能が低下したとき
あなたならどこでだれに介護してもらいたいですか?

配偶者でしょうか
お子さんでしょうか
それとも介護士やヘルパーでしょうか

認知症になったら家族に迷惑をかけたくないから施設に入れてほしい
と思っていても、意思表示をしていなければ娘様や息子様にとって、大切なお父様お母様ですから
家でみてあげないと…
と頑張ってしまわれるかもしれません。

そういったことを防ぐためにも意思表示をしておくことは大切になります。

また、認知機能が低下したとき家族が悩むのは
検査が必要な病気がみつかったときです。

事前に「腫瘍がみつかっても検査はいらない」「告知はいらない」
と示しておくこともできます。
もちろん、病状に応じて検査や治療を行う方がよいと医師が判断すれば家族との話し合いのもと変更されることもありますが、本人の気持ちを聞かずに決めてしまうということは、家族にとって負担が大きいものです。

栄養について

次は栄養についてお話しします。

数年前にお看取りさせていただいた患者さんです。
終末期のがんの方で、入院中の方でした。

「一切の延命治療はいらん!点滴もいらん!」
と一切の治療を希望されませんでした。

一見投げやりにみえる発言でしたが、実際のところは違いました。

「ずっと自分のことは自分で決めてきた。自分の力で生きてきたのに、最後に点滴をされて生かされるのは自分の信念に反している」

と話されました。

最小限の点滴は喉の渇きを癒し、苦痛が緩和されることがあります。
けれどもこの方は最後まで信念を突き通されました。
飲めなくなってくると、私たちは大きな綿棒を凍らせて喉の渇きを癒したり、こまめにスプレーをかけたりして口渇感の緩和のためのお手伝いをしました。
喉の渇きが癒されたあとのホッと表情が和らぐ様子は今でも目に焼き付いています。

医療の当たり前を押し付けることなく、チームで緩和する方法を考え、信念を支持できた事例でした。


何が正解かではなく、十人十色の考えがあり、その方の信念を支えることが私たち医療介護職のできること
だと思います。

また、胃瘻=悪のイメージが横行していますが、一時的に胃瘻から栄養を注入することで元気になり、喉のリハビリを頑張られ、また口からご飯を食べることができるようになった方もいらっしゃいます。

食べることはとっても大切なことですが、人によってはその優先順位は変わってきます。
例えば、食べることよりももっと大切なことがあると思われる方
食べることが何よりも大切と思われる方
本当に人それぞれです。

あなたはどうですか?
何をどこまで希望するか。この機会に考えてみましょう。

信頼できる人に共有しましょう

今まで考えてきた「あなたらしさ」
これをぜひ、信頼できる人に話してみましょう。

家族や大切な人は「縁起でもないから聞きづらい」と遠慮しているかもしれません。
ぜひ、もしもの話しをしてあげてください。

共有することで、あなたの希望が実現します。

医療・介護関係者にも伝えましょう

あなたと大切な人とで話し合いができたら、次は病院の看護師や相談員、施設のヘルパーさんや介護士さん、相談員さんに話してみましょう。
きっと、判断するのに必要な情報をもらえると思います。
医療・福祉関係の人たちに共有することで、もしものとき、あなたの希望が叶います。

気持ちが変わってもOK。何度だって書き直せます

いかがでしたでしょうか。
人生会議は、「エンディング」だけではなく、今までの人生の棚卸しと、これからをもっともっと楽しく豊かに生きていくための手段ということがおわかりいただけたでしょうか?

豊かに生ききるために

ぜひ考え、話してみてくださいね

講演のご依頼をお待ちしております

プライベートナーシングコハルは、老人ホームなどの施設や自治会などで講演活動を行っております。
緩和ケア現場の経験を活かし、多くの視点から対象の方にあった話しをさせていただきます。

ご連絡お待ちしております!

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